傲岸不遜独奏曲の感想一覧

北埜とらさん
評価:☆☆☆☆☆☆

 ミステリー好きを自称できるほど数を読んでいるわけでもないのですが、わりとミステリー作品を好みがちな者です。『1.ラジオ放送』と『2.留守録』の関係性に妙に違和感を覚え(名前トリックとまでは気づきませんでしたが)、『3.新聞記事』という副題が出てきた時点で「あ、ミステリーだな」という視点になり、現場の荒れ方や容疑者の自殺に関わっていると見られるジュカインが(殺害時点ではボールの外にいただろうに)逃げもせずボールの中に収まっているという点が不可解で、この時点で「他殺かな?」と推察していましたので、『4.遺書』という章題を見た瞬間に「なるほど、自殺偽装のために真犯人が遺書を捏造したんだな」と考えてしまっていました笑。ポケモン小説を読んでいると自分が穿った目で作品を読みがちなことに気付かされます。ですが、オチが読めていたにも関わらず、自分がそう推理したことを途中忘れて読み進めてしまう程の、この圧巻の文章力ですよ。まさに文豪。文豪現る。このネタが仮に思いついたとしても、それをこの構成で作り上げる力、三万字惜しみなく使ってこの人物像を浮かび上がらせる力、この壮絶な三万字を読者に一息に読ませることのできる力、この圧倒的な描写力、筆力、これは本当に物凄いですね。これでこそ小説だと言わんばかりの。私には絶対に書けません。これほどの圧倒的な文章を書ける作家さんが、同じポケ二次界隈にいらっしゃるのだというその事実にまず震えますし、感動を覚えますし、誇りにすら思います。拍手!
>自己顕示欲の強い奴らしく長々しく書いて、その中で徹底的に「嫌な奴」なキャラクターを作らせて、読んだ人間の感情を逆撫でしてしまえば、同情する人間もまさかいないと思う。
 すみません、同情しました笑。いや同情だと言うと若干語弊があるのですが、遺書の中で描かれているのは人間誰しも少なからずは持ち合わせている感情なのですよね、きっと作者さんもそうだと思われて描かれたのだと思います。そしてそれを隠さず発露する人間を現実に目の当たりにした時、きっと多くの人が「ダメなやつだ」と見下すのでしょう、誰もが持ちながらも、安寧に生きるために誰もが隠している感情だからこそ。その少なからずを、極限まで増幅させ、煮詰め、凝縮した、露悪的に形成された「ダメなやつ」の人物像。それが捏造されたものだという構成。ううん隙がない、素晴らしい。更に見事だと思うのが、この人物像を捏造した長谷部由希さんその人こそが、『完璧』を求めるあまり一切の穢れを許せないという、まさにこの遺書の通りの性質を発露しているという点なんですよね。ダメな奴、嫌な奴、バッシングを受け消えるべき人物として徹底的に露悪的に仕立て上げた人物像が、己と鏡写しであるという。おそらく由希さん自身はそのことにまだ気付いていない。だからこその『独奏曲』! この構図が巧すぎる〜! オチが読めていても満足感があったのはこのあたりなのだろうと思います。
 遺書で語られた庄司さんの人物像は捏造で、じゃあ本当の庄司さんとはどういう人物だったのか、何故無差別通り魔殺人という凶行に及んだのか、という謎が残されるわけですが。これからこの件が安易に自殺と処理される前に遺書の整合性などを警察も調べるでしょうから、幼馴染である程度の親交のあった由希さんの捏造した遺書の語る人物像もある程度は本物に近づけていたのではないかと予想しています。 > 章司君が、あるいは章司君の彼女である私が、あいつに何かしたから暴れた、あんな事件を起こした、なんていう筋書きが描かれる可能性自体が、章司君の汚点なんだ。そんな可能性は、絶対に潰さなきゃならない。 この文面を斜めに解釈すれば、通り魔殺人の件も由希さんが何かしら関与していた可能性も無くはないですね。でも真相は闇の中。もう少し深く読み解けば手掛かりが見つかるのかもしれません、そういう楽しみ方が出来る作品だというのも私としては非常に好印象です。分かりやすい楽しい小説もいいけれど、読み応えのある小説も、いいよね!! あっあと三題噺の消化が全てに於いて実にお見事でした……!!笑 投稿お疲れ様でした!

猫村さん
評価:☆☆☆☆☆

途中まで読んでた時の感想と最後まで読んで生まれた感想がまたガラリと変わる。ううむ、これはR15。
これまた文がお上手で、凄いなぁと思いました。最後の最後に全てが纏まってオチるのも素晴らしい。

遺書を偽造したヒロインはかなり殺した主人公の事か好きだったのだなと思いました。
何故かと言えば、遺書の内容がものすごく詳しいからです。捏造部分もあるのかもしれませんが、ただ恨んで殺したにしては主人公にかなり関心が高い。本気で嫌いだったら遺書すら書かなかったんじゃないかな。自分は好きだったけれど、主人公は全く自分との恋愛に興味を持ってくれなかったからここまで遺書が書けたんだろうなと私は思うんですが…実際はどうなのでしょう。
で、多分恋人のこともヒロインは好きでないのでしょう。本気で好きだったら恋人のポケモン使って殺しをしようとか思わないと思う。掘ってみると深い闇が見えてくる。ヒロインが好きなのは結局自分だけ。
…って、そこまで勝手に考えちゃったんですけど、的外れだったらごめんなさい。

ラプエルさん
評価:☆☆☆☆☆

腹に一撃貰ったかのような衝撃が来る作品でした。
「傲岸不遜」がまず読めなくて意味と一緒に調べたのですが、これはぴったりな四字熟語ですね!わかりもしない他人の考えを自分勝手な思い込みで決めつけ、勝手に周りと溝を作りながらも内心で見下していた庄司をよく表していて且つ、「独奏曲」も素晴らしいセンスでした。

彼の人生を壮大に語った遺書、初めは本人が書いたものであって「いやーこれはちょっと斜に構えすぎだなあ…自ら孤立していってるだけでそんなに世間は厳しくないよ…」と思っていましたが!まさか!!上田くんを愛しているがゆえに由希が作り上げたものだったとは…!!

> 由希はにっこりと笑顔を浮かべ、
「何でもないのよ……何でもね」

この終わり方に鳥肌が立ちました、いやあここまでぞくぞくさせてくる作品には久しぶりに出会いました…
蛇足ですが、実は去年のAテーマでコガネシティ出身の「ショウジ」というトレーナーを出しています。この作品の二人のショウジとは似ても似つかぬ性格なだけに、少し違和感を覚えながら読んでいました、彼には漢字をあててありませんが…。

人間の生々しさを出した作品は書くのも読むのもあまり得意ではありませんが、勢い凄まじく畳み掛けてくる雰囲気に圧倒されあっという間に読み切ることができました、素晴らしい文章力と表現力でした!お見事です!

あしゃまんさん
評価:☆☆☆☆☆☆

 あっ……。
 ショウジが苗字な人と名前な人がいるってとこまでは読めたんです、そしたら最後……!
 こうやって騙されることを背負い投げを食らうと何故か呼んでるんですけど、見事な背負い投げでした……。
 完敗です。楽しませていただきました。

円山翔さん
評価:☆☆☆☆☆☆

 騙されました。全部偽造だったんですね。でも、全てが偽造だったわけではないようにも思います。どこからどこまでが事実だったのかが気になるところです。
 なんでしょう。これは私が登場人物に自分を重ねてしまうからなのかもしれませんが、庄司宗憲さんの手記(偽造ではありましたが)を見ていると、今までの自分を見ているような気がして気が塞ぎこんでくるのです。そうさせる力をこの小説は持っていると思うんです。「ウエダ君」と1のショウジ選手が同一人物であるというのも、最初はおかしいなと思っていたのですが、5で見事に回収されていたと思います。

夜月光介さん
評価:☆☆☆☆

11・傲岸不遜独奏曲 主張するビンゴ 3ビンゴ以上

ストーリー評価 50点 減点無し 総合評価 50点

『感想』

ラストのどんでん返しと『タイトルに込められた意味』は秀逸。しかしスマートでは無い

アイディアに関しては、『満点』だと思います。
では何故彼が殺人事件を起こしたのかと言う大きな謎は残りますが、
彼女こそが『傲岸不遜』であり独善的な思考の人間であったと言う
驚愕のラストは一流のミステリードラマを見せ付けられている様です。

ただ、気になる所は結構ありました。
捏造したと言う遺書があまりにも長過ぎて、果たして捏造出来るレベルの
代物なのかと言う点が1つ。後はやはり、無駄の多い文章でしょう。
『狂気』を表現する為に何度も同じ様な事を言う人物と言う点を
強調したかったのでしょうが、作品が読みにくくなっていると思いました。

彼女が彼に近付き、目的を果たした後使い捨てた。
まさしく『白夜行』的なストーリーであり、彼女の狂気と
人を切り捨てる残虐さと狂おしい程の愛は戦慄すら感じます。
元々の書き手としてのポテンシャルは相当高いのでしょう。
だからこそ、まだまだ向上の余地があると思いますし、もっと高く飛べると思います。

成長を感じさせる作品だと思いました。
アイディアとラストの描写が素晴らしいので、これからも頑張ってください。

BoBさん
評価:☆☆☆☆☆☆

 独特の編成で、序盤から不穏さを感じられて背筋が寒くなりました……! そのままひりついた空気を感じながら読んでいって、最後の種明かしでさらに恐ろしくなりました。由希ちゃんは常識人だと思ってたのに……! でもあの遺書も由希ちゃんがでっち上げた物なら、そりゃ自分の事は常識人とかあまり干渉してない見たいに書くよなぁ、と連鎖的に思い当たって底知れぬ狡猾さも感じました……! 遺書に出てた庄司君の話はどこまで事実なのか、と言うところも考察に幅が出そうでとても面白いです……! 考えすぎかもしれませんが、由希ちゃんが恨んでいたのは庄司くん、好きなのは章司くん……片や名字、片や名前であること、漢字も違いますが読みが同じと言うところは本当に無関係なのかなぁと思いました。もし読みが同じ所まで恨みを買うきっかけになっていたら……。さすがにずれてる可能性も高いと思うので関係なかったら気にしないでください……!
 ピリピリとした緊張感のエンターテイメント、パワフルに響きました! ありがとうございました!

ソラさん
評価:☆☆☆☆☆☆

他のかたも言っているかもしれませんが最初と最後で物語に対する印象がガラリと変わる作品だと思いました。
最初は終わりかたが意味わからず、もう一度読み返してやっと意味を把握できてよく練られた構成だなーと感じました。
ジャンル的にはミステリー(?)に入るのでしょうかね?
読者にもう一度読ませるように仕向けるのは簡単なことではないので、それだけの文章力があるのが何よりもすごいことだなーと思いました。

草猫さん
評価:☆☆☆☆☆☆☆

......ひたすらに凄い。 最後の最後で事実が発覚したところは、本当にやばいと思いました。 関係性のドロドロさが伝わってくる気がして......。
まず、遺書が「精神の狂った人が書く遺書」という感じがありありと伝わってきました。この作品の大半は遺書であった訳ですけど、その感じが途切れないどころか加速している......。最後辺りは特にグッと来ました。どこまでが本当で嘘なのでしょうか......?
......そして、最後の部分は本当に驚きでした。ユキは常識人だと思っていたのに、完全に騙された。彼女の最後のセリフも毒をはらんでいるようで、彼女の持つ底知れない闇が伝わってきました。
シリアスが満載で凄い面白かった......。作者さんの技量の高さを感じました!
投稿お疲れ様でした!

Pさん
評価:☆☆☆☆☆☆

チャンピオン戦での劇的な勝利を伝えるラジオ放送から始まり、常に誰かの語りや記事といった一般の小説とはやや離れた文体で伝えられる物語はその書き方だけでも風変わりで、この形式を果たしてどう使うのか、そして提示される各話がどう関連するのかという興味が募りどんどんと先を読み進めてしまいました。
話の核となる「4.遺書」の朗読脚本を思わせる読点の多い淡々とした文体はまさに書き手の語りを間近に聞いているようでした。
しかし語られる過去の中で書き手がたびたび見せる激烈な怒りに比してそれを振り返る現在の筆致は奇妙なほど冷静だったり、そもそも事件を起こしてから一日ほどで書くにしては遺書があまりに長かったりとところどころに違和感があり、それこそが「そもそも別人が書いている」という結末に繋がる伏線だったと知った時は膝を打ちました。そりゃあ一致するはずがない。ちらっと登場した人としか思っていなかったユキさんがまさかこんなにタイトルを体現する人だったとは…
名字と名前を使った叙述トリックにも見事に騙されました。「チャンピオンのワタル」と下の名前を呼んでいるのだから挑戦者の方も同様なんですよね。
まったく発生を予想していない状況で突発的に事件が起こってから荘司さんの遺体が警察に発見されるまでの一日ほどの間にこの文量の遺書を書けてしまうユキさんには相当の文才を感じますが、5.で語られる隠蔽工作へのとてつもない熱意の前ではその現実的な計算が霞んでくるような気さえします。
おそらく荘司さんの関係者へ事実関係の確認が入ることまで計算に入れていると考えているので少なくとも行動面においては遺書の内容は真実だと思っているのですが、もしも内面までもだいたい当たっていたとしたら、という仮定についてどうしても考えてしまうんですよね。ユキさんもまた傲岸不遜な完璧主義者そうで、相当に(望むかどうかは別としても)気持ちがわかってしまいそうだし、同族嫌悪として好印象を抱かないことに納得がいくので…

春さん
評価:☆☆☆☆☆

 乱鴉とはまた別の意味で異彩を放つ作品ですよね~。死んだ方のショウジ君、めっちゃひねくれてて可愛いな~とちょっと思ってしまいました。ユキちゃんの創作遺書ではあるですけどね……ここまで書けるってユキちゃんの想像力と観察力と執筆力どうなってんのや……天才でしょ……絶対その道で食ってけるでしょ……。
 ショウジ君がマウントとりまくってるのは問題ではありますが、マウントとる為にきっちり努力してるのが良いですよね。でも将来的には落ちぶれるんだよなぁ……。現実にいたらめっちゃ嫌いなタイプって言うか、顔面陥没させたくなるタイプの性格のショウジ君なんですが、物語上だったら可愛いな~って思えるのが不思議!ユキちゃんが汚点扱いして存在を消したくなるのも残当かもしれん。
 ショウジ君とニーナの関係が結構歪んでるのもいいですよね。うーん、全然違う話になっちゃうんですけど、ショウジ君が生きてるほうのショウジ君に影響されて改心したら良かったのになぁ……。ニーナとの出会いからのゲットまでの流れと関係性がめちゃくちゃ好きなんです。ニーナを執拗に追いかけまわして最後には泣いちゃうショウジ君めっちゃかわゆす……可愛すぎる……泣きながら追いかけてくるショタ……イケる!(`・ω・)b
そんでもってニーナは孤独だったから、自分に執着してくるショウジに捕まってあげたとか、自分の能力を見せびらかす相手が欲しかったとか、何その屈折関係凄い好き!あぁ~屈折してるキャラに弱いんじゃ~!!ショウジ君が周囲の人間を歪んで見てるのもめちゃくちゃ表現上手いですよね!変に勘ぐっちゃったり、勝手に悪意を投影したり……一番問題があったのはショウジ君なんですよね~。自分から敵を作りに行ってるというか……。人って結構、自分の考え方や基準、見方を他人に投影してたりするじゃないですか。ショウジ君がバトルに負けた人を見下す人だったからこそ、自分が負けた時、人に見下されると怖がってたんですよね~。ショウジ君が負けた人を見下したりしない人だったのならば、自分が負けることにもさほど怖がったりしなかっただろうな~って思います。悪意を持ってショウジ君が人に接するから、他人にありもしない悪意を見たりするんだよなぁ……。でもこういう人いますよねぇ……そしてショウジ君の気持ちや言動は、私だって時にはとってしまうことがある。だから理解も出来る。あぁ人の業の深さよ……

ptさん
評価:☆☆☆☆

救いのある太宰治、という印象を受けました。
遺書にひたすら書き連なれた尊大な自尊心と後戻りできない自己嫌悪、そして破滅的思考回路がすべて庄司宗憲の本人の意思ではなく、全て長谷部由希という作者が作ったキャラクターだったというだけでかなり救われました。
少なくとも読者は真相を知っているわけですからね。破滅へと沈んでいく哀れなショウジ君は本来いなかったのだ。
もちろんこのままではワールドで庄司宗憲の名誉が回復されることは絶対にないですし通り魔に遭った人たちに至っては「遺書中の庄司宗憲」が架空の人物だからって、どうした!と言いたいところでしょうが、そこは物語の中のお話。
読者は通り魔事件は物語の中の出来事、庄司宗憲は物語中のフィクションで実に逆説的に安心させられるのです。

最も、長谷部由希の完璧主義が長谷部由希自身に向けられたとき、物語はさらに悲惨な事件を起こすでしょうが

照風めめさん
評価:☆☆☆☆☆☆

今回のポケスト25のなかでは一際異色の一作でした。話の構成もそうですが、内容も凄まじい。遺書の迫力についつい注力していたところ、オチで驚きました。
冒頭のショウジと遺書のショウジが別人であることまではわかっていたのですが、まさかそんなオチになるとは……!
一人称小説のある種お手本ともいえるような技量の高さでした。この独白こそ一人称の持つ力ですよね。
しかしこの遺書の中でのショウジ、流石にここまでではありませんが変に完璧主義なところとか、ちょっとだけ共感してしまう所があり、理屈の通る彼の性質に悪辣だと思いつつ目が離せませんでした。本当にこういう人は存在しているだろう、と思わせるリアルな造詣にゾッとしました。
>だから結局、彼女は最後の最後まで、私を下に見ていたのでした。屈辱的!
妙にこのフレーズ、コミカルに感じて面白かったです。
遺書はショウジの生い立ちが続き、彼が憎むものが明確化して遺書が終わる。
からの衝撃のオチ! 見事に騙されました。確かにこのオチを知った上で遺書をもう一度読み直すと、もうどこまでが本当でどこからが嘘なのかわからないのが怖いです。
ところどころ真実を混ぜられた嘘ほど恐ろしいものはない、と思いました。
ショウジが事件を起こしてからのユキの仕事がめちゃくちゃ早すぎて、ショウジよりも数段ユキの方が狂気だと思いました。やはり愛というのも一種の狂気なのかなあ。
というかユキがあまりにも多彩すぎる……。
しかしユキもそうだけど、共犯となったポケモン達も一生罪を抱えて生きることになるのは可哀想だなあ。
また、本作は三題噺の扱い方が飛び抜けて上手いなあ。お題の消化の仕方については本企画随一だと思います。

rairaibou(風)さん
評価:☆☆☆☆☆☆

「遺書にしちゃ長過ぎねえか?」
「こいつ自分語りしすぎだろ」
「そもそも遺書のビックリマーク使うかね?」
 えー、これらが私がこの小説のオチを確認するまでに思っていたことです本当に上手に掌の上で踊らされていますね。良い読者でしょ?
 この作品って隠されている部分が非常に多くて、その分いろいろな疑問であったりとか「ここはどうなの?」とか言う部分が出てくるんですけど、そういうところが全部「登場人物がイッちゃってるから」で解決できてしまうんですよね、これがこの小説のすごいところであり怖いところでもあります。
 ただちょっとだけ思うところがあって、これって作者さんの中では多分物語の全貌があると思うんですよ。遺書の部分を少し削って、その全貌のヒントに成るようなものがもう少しあれば星を増やしたと思います。

フィッターRさん
評価:☆☆☆☆☆☆

 謎めいた余韻が残るお話を作ろうとすると、往々にしてお話そのものが謎になってしまいがちですが、このお話はきっちり謎を制御した謎めいたお話になっているのが素晴らしいです。
 最初はラジオ放送と留守電の書き起こし、つづいて新聞記事と来て遺書でようやく物語めいてきて、その内容でラジオ留守電新聞記事もつながってきた……というところで、最後のパートで遺書が偽造されたものだと判明するというどんでん返しが待っていて、庄司宗憲という人間の人物像だけがきれいにぽっかりと謎として残る。この巧みさに痺れます。その構成が『庄司宗憲という汚点の存在を消し去りたい』という犯人の動機とぴったりシンクロしているのがまた素晴らしくてゾクゾクしますね。

花鳥風月さん
評価:☆☆☆☆☆☆

大変申し訳ありません。初見でタイトルをググらせていただきました。
これもまた「どんなお話なのだろう?」と興味をそそられた一作です。音楽関係の話かな?と思いきや、本格的なトリックものでした。

> 警察は今朝、この事件の容疑者としてコガネ市在住の庄司宗憲(しょうじ・むねのり)容疑者(17)の逮捕状を取ったと発表し、捜索を進めているとしている。

えっ

えっ

えっ……?

エッちょっと待っ、庄司さんってショウジさん?チャンピオンになったと思いきやまさかの殺人容疑で逮捕!?なんだと……。そしてポケモンの世界はトレーナーになれば未成年でも成人扱いになるのか、17歳でも名前を公表されてしまうのか……世知辛い。

>昨日発生したコガネ市路上の無差別殺傷事件で、指名手配されていた無職・庄司宗憲(しょうじ・むねのり)容疑者(17)が、自宅アパートで心肺停止状態で発見され、間もなく死亡が確認された。死因は頸動脈を切られたことによる失血死とみられている。コガネ市路上から逃走した際の服装そのままであった。近くにあったモンスターボールから、腕の刃に血の付着したジュカインが発見され、このジュカインが何らかの理由で容疑者を殺害したものとみて、調べを進めている。
からの死んでしまわれたぁあああああ!!!?ニーナちゃん?ニーナちゃんですよね?ジュカインって……。
引用はしなかったのですが、メスのジュカインって設定が新鮮に感じました。イケメン枠のメスポケモンって、なかなかお目にかかれない気がしてこういうチョイスいいですね。
そしてここから先が、この作品の肝ともいえる『遺書』のパートになりますが。

>こんな長々しい書置きを書かねばならなくなった理由なんて、ただ暗い穴を覗き込んで底に何が見えるかを調べる好奇心より他に知りたい動機があるとも思えませんし、その好奇心を持続させるような文を書く文才を持ち合わせていないため、読みづらいことこの上ないでしょうが、
いやいやいやいやいや!!?ショウジ先輩すごいですよ……こんな遺書17歳書けませんよ……。いやでも一種の高2病みたいなノリで書けるのかもしれない……?
メチャクチャなことを言っていますが、17歳にこんな遺書を書かせることができる作者さんが凄いです。

> 思えばこのころから、私はとっくに底意地の悪い人間であったのだろうと思います。敢えて、父の嫌がるような、トレーナーとして旅に出て、ポケモンバトルを生き甲斐として暮らすような生き方を選ぼうとしたのですから。
堅実派の方には、子どものうちからポケモンと各地を放浪するってあまりいい顔をされないものなのかもしれないですね。この世界の雰囲気が垣間見える一文、非常にいいアクセントに思いました。
四足歩行のポケモンを連れたリュックと帽子の女の子はピカブイでしょうか。個人的に真っ先に連想されました。

>つまり、父の快活な笑いを、快活を装った陰湿な嘲笑だと感じた私は、父の笑いに、そしてそんな父のために脳髄を痺れさせ頭を真っ白にしたことに、屈辱すら覚えたのです。
ショウジさんがいかに屈折したものの見方をしているのかが強調されている気がします。10代でここまでものを深く考え、捉えることができるあたり、昔から非常に賢い子だった故なのかもしれないですね。

>誰かが逃がしたキモリが繁殖したものの、その珍しさゆえに人間に乱獲されながらも、そのジュカインは並外れた経験値の蓄積ゆえに捕獲されなかった、というのがもっともらしいですが、詳しいことは今はもう分かりません。
あの世界なら御三家繁殖させては逃がすの多そう……。でも進化系のポケモンがそのまま野生として生き続けるって可能性もありますよね。

>まず第一に、私はポケモンの育て方を知りませんでした。そうして知らない状態で、完璧を目指そうとしました。
> 第二に、私は他人に頼ることがどうしてもできませんでした。ミニスカートや塾帰りなどは、クラスメイトや近所付き合いでバトルをし、その少しずつの蓄積を力に変えていきます。しかし彼ら彼女らのバトルは、例えばひたすらはたくやたいあたりで攻撃し続けたり、なきごえやしっぽをふるを繰り返してばかりで全く攻撃しなかったり、戦術も何もあったものではありません。そうしたバトルもやはり、私はお遊びと断じて忌避しました。さりとて、熟練のエリートトレーナーなんかに喧嘩をふっかけることもできませんでした。
おおんマジですかショウジさん。プライドの高さ故に、幼いころから誰かに頼ることや、誰かと対等にあることができなかったのかなぁと感じます。続くニーナちゃんさんへの虐待とも比喩できる暴言も、ニーナちゃんさんから見れば恐怖政治とも捉えられていたかもしれません。このコンビの関係めちゃくちゃ歪んでいるようにも感じます。でもそれがいい。
そんな中でウエダくんにニーナちゃんさんを託すことを提案したユキちゃんファインプレー。彼女がいなかったら、ショウジさんとニーナちゃんさんの関係がどんなところにたどり着いていたのかと思うとちょっとドキッとします。

>ニーナのことを褒められれば褒められるほど、注目されれば注目されるほど、私は責められている気分になったのです。何故なら彼女は、私の悪辣さの象徴であり、幼稚で非情な性質の象徴だったからです! 完璧ではない、私の弱点を、全世界に知らしめてしまったのです!
うわぁぁぁぁぁこれはショウジさん溜まったもんじゃないかと思います。ウエダくんとショウジさんの対比が、ニーナちゃんさんを通して示されたように感じます。

>本当に使えない奴だった。あのジュカインが強いポケモンなのは知っていたから、あいつに捕まえさせて、育てさせて、彼の――上田章司君の戦力にしたら、後は用なんてなかった。大人しくしていればいいのに、あんな事件を起こすなんて。

……!!?
えっ!!?えっ!!!?!?!?!!?!?そういうことだったのかぁあぁああああああ!!!!!!
しかもユキちゃん……あぁあああ……えっ、みんな狂っていたのか……。

とてもゾワッとさせられる幕引きになりました。狂ってしまった(狂ってしまっている?)人々による、闇の中へと葬られた事件。今後彼らが過ごす未来はどんなものになるのでしょうか。いずれ真相がわかる日が来るのか、墓場まで持って行くのか。どっちに転んでも、彼らは本当に満たされるのか、いろいろ考えさせられました。

投稿お疲れ様でした!

坑(48095)さん
評価:☆☆☆☆☆

 うおっ病んどる………………
 ずっとこんな感じで若干引きながら読んでいました(いい意味で(?))。おかしな話なんですが、だから最後に、本当は遺書じゃなくて擬装だったということがわかって、一瞬ホッとしてしまいました。病んでたのも嘘だったのかなって。でもよく考えたら(よく考えなくても)庄司宗憲はおかしくなって無差別殺人してるし、やっぱり遺書の内容は実際とそう変わらないんだろうな。なんならこれ書いた長谷部ちゃんも相当病んでるに違いない。そう思ったら恐ろしくなりました。ひとに責められる幻聴が非常にリアルに感じられ、もしかすると彼女自身もこれに苛まれていたのかもしれないと思うと、本当につらい。書いてるときのメンタルが心配になる。大変なものを書かれましたね……投稿お疲れ様でした。

早蕨さん
評価:☆☆☆☆☆☆☆

 トリックがどうとか、キャラがどうとか、ストーリーがどうとかの前に、単純に遺書の文章がうまいなあって素直に思いました。後の事なんか考えず、庄司宗憲を語って作られた偽造遺書に入り込んだ時点で作者様の勝ちでした。あの生きづらそうな性格の庄司宗憲があの後どうなっていくのか、そこばかりが気になってしまいました。
 かと思えば最後の偽造遺書の展開。まあこれにはやられましたね。本当に完璧主義なのはユキの方で、あの遺書では庄司宗憲の真実は一切語られていない。その狂気がもの凄く心地よかったです。
 庄司宗憲が通り魔を行った理由が明言されていないのは、ユキ視点だからこそなのでしょうが、理由が語られていないからこその想像の余地というか、良い意味での気味の悪さを残しているんじゃないかなと思っています。 
 狂気を感じるくらい上田庄司の事が好きなユキなのに、庄司宗憲にジュカインを捕まえさせた事は良かったのでしょうか。それは上田庄司が負けている事をユキが認めている事になるんじゃないかなって思ってしまいます。その時点ではそこまでの狂気はなかったということなのでしょうか。
 ユキが小さい頃から強く強く上田庄司の事を好きだったのだとすると、この物語の黒幕が、僕には上田庄司に見えてきてしまいます。上田庄司にとってユキほど操作しやすい人間はいないでしょうから、ユキにジュカインの事を吹き込む事が出来たのかもしれません。
 ユキを操り、上田庄司が何等かの手段で騙したのがだとすると、なんとなく僕の中で腑に落ちてしまうのです。
  作品の中でそれは絶対にない、と言えるような書き方をされていたら僕の読み込み不足なのですが、でもこんな風にこの作品の真実を想像出来るようなところもこの作品の楽しみ方なのかもしれないなあってそんな風に思いました。
 投稿、お疲れ様でした!

雪椿さん
評価:☆☆☆☆☆

最後の最後で騙されました。これは二つの意味でR15な作品ですね。
読んでいてすっかり犯人の思惑通りになっていたため、「やられた……!」と思いました。想像でここまで書けたら天才なので、他の方の感想でも見たように一部事実も入っているのでしょう。彼のことを知っている人が「おかしい」と感じたら、そこから色々と崩れてしまいますからね。
最初に読んだ時は気にしていなかったのですが、冒頭と次のパートにも何かヒントやら何かがあったのでしょうか。読み返す時間があまりなかったため、仮にあった場合は申し訳ないです……。
この事件はこのまま真相がわからず終わってしまうのでしょうか。そうなったら一番得をするのは……彼? それとも彼女? どちらにしても、この中で一番恐ろしいのは何でもなさそうな彼女だった。その事実は変わりませんね。
読んだ後に二つの意味でゾクリとできる話をありがとうございました!

しろあんさん
評価:☆☆☆☆

最後で一気にひっくり返されました。ええ、思いましたとも。「嫌な奴」だなと……
この作品はあらゆる点で異色を放っていたように思います。途中まで読んでいた時の感想を一気にひっくり返すオチもそうですし、遺書が本文の大半を占める小説なんてそうそう無いですよね((
遺書で描かれていたショウジさんは完璧主義で、自意識過剰で、融通が利かない、まさに「嫌な人間」なんですけど、その一つ一つを見ていくと、ショウジさんの気持ちも分からなくは無いかもしれないと思えるのが凄い所なんですよね。何が凄いって、ユキの文才が……←
結局のところ、どこまでが真実でどこまでが嘘の話だったのでしょうね……一つ言える事は、ショウジさんもユキもまともじゃないって事ですね。ウエダさんは……何も知らない被害者なんですよね?せめてそうである事を祈ります……((
投稿、お疲れ様でした!

トビさん
評価:☆☆☆☆☆☆

優勝シーン、電話のシーン、そして事件のシーンと断続的に情報が与えられ、遺言が始まるわけですが。最初はセキエイリーグで優勝したショウジが何らかの原因で落ちぶれて、まだ精神が正常なうちにジュカインをウエダくんに託し、どんどん病み闇に落ちていくうちに凶行に及んだんだべなあと考えながら読み始めたんですけど。ショウジは二人居たし、チャンピオンは死んでないし、なんなら遺言すらどちらのショウジさんが書いたんじゃないし、しかも事件起こしたショウジの一人称はこの小説にどこにもないというまさかのオチ。いや~やられました。すごい小説ですね。

>私はこれを読むあなたが、私とユキとの関係を見て、思春期を過ぎた頃に互いを意識して恋仲になるような真似を想定する、下卑な人間でないことを祈ります。 >思春期の男女が二人きりで、という状況に、何かを期待する私ではありませんでしたが、事実、その内容も色恋沙汰では全くなかったのでした。 この真意を知った時はゾクゾクしました。ユキが書いてるんだから、そう思われたくないに決まってるんですよね、上田くんにあらぬ疑いをかけられたくないわけですしね。
この遺言がユキの創作だとしても、宗憲くんが言った言葉から推測をしてこれを書いているはずなんですけど、果たして彼が、一つだけ挙げるなら >その立ち尽くしている間に、一つの感情が私を支配していたのです。それは怒りでした。 と本当に思っていたんでしょうか。これユキが宗憲くんから聞いたエピソードだと思うんですが、この中で宗憲くんのセリフは >「うん」のみなんですよね。ユキのフィルターを通してしか読者は宗憲くんの事を見ることが出来ていないので、もしかしたら彼は大人しいだけで素直ないい子だったのかもしれないとか考えちゃいますよね。

ユキの怖い所は、宗憲くんについて>本当に使えない奴だった。あのジュカインが強いポケモンなのは知っていたから、あいつに捕まえさせて、育てさせて、彼の――上田ウエダ章司ショウジ君の戦力にしたら、後は用なんてなかった。大人しくしていればいいのに、あんな事件を起こすなんて。 としか思っていないところです。ユキの他人ありきな上昇志向というか、人を駒に使うような思考だったりとか。上田くんに対する好意だって、ポケモントレーナーとしての実力が無かったら存在してないかもしれません。いったいユキは何者なんだろう。チャンピオンの彼女に納まる事がゴールなのか? それとももっと野望があるのか? 想像が膨らみます。
そして何よりこの小説の更に恐ろしい所は、宗憲くん(17歳)の一人称が全く存在しない所なんですよね。なぜ事件を起こしたのか? なぜ上田くんにジュカインを渡したのか? ジュカインとは本当にこんな出会い方だったのか? てかそもそも宗憲くんって誰? って誰って。「誰?」って。めっちゃ怖い。思うにこの感覚は、この力のこもった遺書があったからこその感想だと思うんですよ。こんなにも長い独白を読んだ後に来る「誰?」がめっちゃ怖かったです。本当に素晴らしい。
3万文字近く読んで、宗憲くんについて一切の理解を出来ずに閉じていくこの恐怖。ある一人称から聞かされた第三者の言葉や行動は、どこまで行ってもその一人称の主観でしかない、というメッセージも込められているのかなとも感じました。新しい読書体験でした。ありがとうございました!

カイさん
評価:☆☆☆☆☆☆

オチそのものはもちろん、物語の大部分が物語の真実にほぼ関与しない、というまさかの構成に驚きました。先輩が後輩に長い自省の手紙を宛てる、という部分が夏目漱石の「こころ」のオマージュのように見えましたので、埋まっているビンゴテーマの恋愛要素として、きっとどこかでKが登場するに違いない……と構えていたので、予想のはるか上方を行かれた結末には、爽快さと同時にうすら寒さ、狂った愛情がもたらす煉獄のような熱気すら感じました。遺書の内容や長谷部由希の行動など、人間の感情を大変な迫力をもって描写した作品でした。素晴らしかったです。

結局、真相は闇の中なんですよね。庄司宗憲は、偽の遺書内で長谷部由希による脚色が大いに加えられていたとはいえ、通り魔事件を起こしたことは事実ですし……。ジュカインのニーナをはじめとする庄司宗憲のポケモンたちが誰を慕い、何を思い、主に対してどんな感情を抱いていたかもほとんど描写がないので、そういった観点を想像しながら読み返してみても、また違った味わいがあるような気がします。

投稿お疲れ様でした!

逆行さん
評価:☆☆☆☆☆☆☆

一言で言えば怪作。そういうふうに感じました。圧倒的な文章力から繰り出される、怒涛の心理描写には圧巻でした。そして、その結末にも大変驚かされました。まさか全部捏造だったとは。ここまで遺書部分に力を入れて書いておいて、このようなオチで終了させる。その思い切りの良さに、大変自分は惚れ惚れしました。

ミステリー部分に関しては正直自分はそこまでピンと来なかったというか。自分はあまりミステリーを読まないので、このトリックが凄いのか凄くないのか、良く分からないんですよね。後、これも申し訳ないのですが、名前のトリックを入れた理由がどうしても読み取ることができませんでした。そういう状況ですので、トリックに関しては自分はあまり着目しないことにしました。

自分はそれよりも、読者を共感させておいて最後の最後で裏切る、というこのちゃぶ台返しの美しさに心打たれました。こういうのを生半可にやってしまうと、「なんじゃそりゃ」ってなっちゃいそうなんですけども、遺書の部分をここまで濃密に描いたからこそ、納得感のいくオチになっているんだと思います。これを「ロック」と表現するのはまたちょっと違くて、でも何か強く表現したいものがあるというのは伝わりました。

自分なんかは結構心理描写に力を入れて小説書いてますけれども、こんなお話しを出されたらたまったもんじゃないですよ。営業妨害ですよこんなん。ここまでクオリティーの高い心理描写を並べて、最後に「実は全部捏造です」なんてやられたら、もうおしまいですわ(笑)。勝てるわけないもんだって。

実際の所はどうかは分かりませんが、自分はこのお話は太宰治の人間失格を参考にしていると解釈しました。ですます調だからかもしれませんが、表現な仕方とかもなんとなく似ているんですよね。唯一違う点は、人間失格の主人公は他の人になんて思われるのか分からなくて苦悩するのに対して、遺書の中の庄司さんは自尊心をきずつけられたくないがために苦悩する、という所ですかね。

人間失格では、主人公の暗い人生を書き連ねておきながら、最後の最後で「主人公は神様みたいな良い子でしたよ」って第三者に言わせて締めている。果たして主人公の本当の性格が遺書通りだったかは誰にも分からない。
ごの小説も同じで、実際の庄司さんは遺書の中の庄司さんとどの程度異なるのか、誰にも分からないんですよね。もっと言えば、作者が小説でどこまで自己投影しているのかも、分からないんですよね。そこがすごく考えさせられる部分で、「果たして自分が真実だと考えていることは本当にそうなのか。嘘偽りなのではないだろうか。いや、真実と嘘がごちゃ混ぜになっているのか」常に疑ってかかるべきだと思いました。

遺書の内容自体も本当に凄くて、とても共感させられるものでした。庄司さんの劣等感や焦りみたいなものがはっきりと伝わってきました。特にジュカインに対する主人公の怒りやこだわりの描写が凄まじかったです。

>こんな長々しい書置きを書かねばならなくなった理由なんて、ただ暗い穴を覗き込んで底に何が見えるかを調べる好奇心より他に知りたい動機があるとも思えませんし、その好奇心を持続させるような文を書く文才を持ち合わせていないため

いやめっちゃ文章巧いですやん(笑)。でも冒頭で文才がないと自嘲してしまうのもまた味があるんですよね。

>ああ……どうして、こんなに苦しいのに、誰も助けてくれないのだろう……。

このセリフで遺書をまとめるのが最高に好き。すごく安直な終わり方なんですね。安直すぎてイラッとくるんですよ。イラッとさせて、それでいて不自然のない締め方が非常に巧いと感じました。

この小説はとにかく恐ろしいと感じました。これだけのものを書ける文才と表現力には脱帽するしかないです。

狛織アオさん
評価:☆☆☆☆☆

 最後の文章が全てを裏切って繋がるお話。ラジオ放送から後輩の留守録、新聞のニュースから容疑者の死亡へと話が展開していく様子は世間一般から見たショウジの姿であって、最後の文章で真実が明らかになった様子は背筋がぞくっとしました。作中でつらつらと長文がある事を示唆する内容が書かれていても、わざと書かれたであろう遺書の内容は一定のトーンで続いているような感じ。流石に色々な意味で苦痛に感じたのでちょっとだけ読み飛ばしてしまいました……。しかしこの話、ショウジの本来の心情はどうであったのかが分からずじまいだったのでとっても気になります。あの遺書に書かれていたのはどこまで本当だったのかな…。執筆お疲れ様でした。

乃響じゅん。さん
評価:☆☆☆☆☆☆

何でショウジはこんなにひねくれた人間になっちまったんだ……と思ったら全部ユキの捏造!!! ユキこっわ!!!!
この文章書ける文才が凄いですよね。ユキ。しかも自分の存在を違和感なく存在させるのになんか都合のいいポジション……狡猾な女よ……
しかも名前もミスリード。庄司宗憲と上田ショウジの二人、チャンピオンになったショウジと殺人を犯したショウジは別人だったとは。これが滅茶苦茶上手いなぁと思いました。
庄司宗憲(17)の人物像は、実は何一つ分かっていないのがこのお話の面白いところだなぁ、と思います。
黒幕はユキ。動機は上田ショウジの名声に泥を塗らないための工作。プラス、個人的に疎ましかった。それ以上の詳しいところが全然分からないので考察し甲斐がありますね。自分で考えていると頭がパンクしそうになります……。
いやー本当に大どんでん返しでした。ヤバイ。ドロッドロ。「好きよ、彰司君」と笑うユキ。めっちゃ怖い。サスペンス。ホラー!!!!!
あと最後に。
>私はこれを読むあなたが、私とユキとの関係を見て、思春期を過ぎた頃に互いを意識して恋仲になるような真似を想定する、下卑な人間でないことを祈ります。
一読目、私は完全にそういう下卑な人間でした!!!! ごめんなさい!!!!←

水のミドリさん
評価:☆☆☆☆


 この書置きを目にするであろう、顔も名も知らない人へ。
 全くもって、嫌な人生でした。私は、完璧主義な癖に何もできず、人を馬鹿にする癖に自分が馬鹿にされることを何より嫌がり、自分が一番下にいるくせに人を見下していないと気が済まないような、悪辣で、卑劣で、愚鈍で、高慢な、そんな自分自身というものに、愛想を尽かしてしまったのです。


 こんな長々しい書置きを書かねばならなくなった理由なんて、ただ暗い穴を覗き込んで底に何が見えるかを調べる好奇心より他に知りたい動機があるとも思えませんし、その好奇心を持続させるような文を書く文才を持ち合わせていないため、読みづらいことこの上ないでしょうが、どうか、投げ捨ててしまわないよう、不幸にも発見してしまった第一人者としての義務で以て、最後まで読み通して、穴の底から這い出さんとする黒く悍ましい何かを、下らないと言って穴の底に叩き付けて下さるのなら、あなたが勇気のある善良な人間であり、そんな人間の存在が証明されることに他ならないのですから、私としても、慣れない長文を書いた甲斐があるというものでしょう。

ここですよね〜文章力で読み手を黙らせてきますわあ。遺書パートで長々と陰惨とした主人公の過去を聞かされるの、並大抵の文章なら読み手あきちゃうと思うんですけど、それがない。延々と読んでられれる。なるほど太宰……これ読んだあと人間失格を読み直しました。
で、この長い長い独白で作者様が描きたかったのは、庄司宗憲ではなく長谷部由希の方だったんですね。私も短期間でレポート仕上げるとかしていた時期がありましたが、ああいうときに参照できるのって自分の経験だったり物の見方に偏りますよね。恋人のポケモンを証拠隠蔽に使い、遺書を捏造して自身の完璧さを追い求める長谷部由希の傲岸不遜さがありありと記されていました。短期間でこんなの書き上げられるとか文才まみれなので本出した方がいい。
遺書パートでは『チャンピオンとなったショウジ選手が、どうして連続通り魔事件を起こして、しかも手持ちのジュカインを使って死んでいたのか』がメインのミステリーになるじゃないですか。読み手もそれが明かされることを期待してあの長い遺書パートを読み進めるワケですが、最後の最後で「全部でっち上げでした」とはぐらかされるのはとても腑に落ちないのですよ……今まで想像していたあの2万字越えの独白は何だったのか……私は何を読まされてきたんだ……時間返せ……、とまでは思いませんがけっこうな肩透かし感を食らわされました。しかも通り魔を起こしたのとサイコパス彼女さんが忍びこんだタイミングは全くの偶然なんすね……そうかぁそこの繋がりもないのかぁ……。せめて眠らせる前に通り魔した動機を聞いておいて、それを元に遺書を捏造してほしかったなあ。ネタバラシが済んでこれから衝撃的なラスト! とかならモヤモヤ感も吹き飛ばしてくれるでしょうけれど、終わり方もインパクトというよりはゾクッと後を引くもので、ただただ陰湿な読後感。それまで読んできたものは長谷部由希の内面だったのだ! と言われても、この読後感を払拭するほどの衝撃ではなかった……。あれから10年は彼氏と幸せに暮らしてきた長谷部由希が、事件の再捜査で捜査線上に浮かび(というかあれだけ自殺に見せかけても犯人特定されると思う)、10年来にあの遺書の矛盾点が暴かれる……なんかだとインパクトあったでしょうか。最後警察が来てくれるだけでも印象違ったとおもうのですよ。いや単なる好みの差かな……。

まーむるさん
評価:☆☆☆☆☆
セリさん
評価:☆☆☆☆☆☆
浮線綾さん
評価:☆☆☆☆☆
ばすさん
評価:☆☆☆☆
はやめさん
評価:☆☆☆☆☆
レイコさん
評価:☆☆☆☆☆☆☆
白銀さん
評価:☆☆☆☆☆
クーウィさん
評価:☆☆☆☆
Lienさん
評価:☆☆☆☆
ionさん
評価:☆☆
不壊さん
評価:☆☆☆☆
くちばシュウさん
評価:☆☆☆☆☆
鶴我 零さん
評価:☆☆☆☆☆
コメットさん
評価:☆☆☆☆☆☆
砂糖水さん
評価:☆☆☆☆☆☆☆