こちらメレメレ島茂みの洞窟前アジト

ひねくれもの
「波音」「マスク」「神経衰弱」
 ここは世界の南に位置する島国、アローラ地方。四つの大きな島からなるこの地方は、それぞれの島が持つ独特の環境に従って珍しいポケモンたちが数多く生息しており、観光人気も高い。そんな平和なリゾート地のこの場所にも、例外なく“ならず者”は存在する。

 黒づくめの団服にクロスベルト、“S”と髑髏を象った団章のネックレス。骸骨を模したキャップとマスクを着け、中腰でゆらゆらのそのそと風を切って歩く彼らのことを知らぬアローラの人間などいないだろう。下手をすれば小旅行でやってくる観光客ですらその存在を知っている。そう、彼らこそがアローラのならず者集団、“スカル団”。

 八つのジムを巡りバッジを集め、ポケモンリーグで待ち構える四天王とチャンピオンを打ち破る他の地方とは異なり、四つの島を巡り試練を乗り越え、大試練を達成することでポケモントレーナーとして名を上げるアローラ独特の慣習“島巡り”。相棒のポケモンと共に戦うだけではなく、トレーナー自身の努力やスキルも合否に直結する試練を乗り越えてきた凄腕のトレーナーたちが脚光を浴びる一方で、試練を乗り越えられなかったトレーナーへの目はひどく冷たい。それは島という閉じた環境ゆえの閉鎖的、排他的な人間性からなのだろうか、はたまた試練を乗り越えられない人間には“努力”が足りていない、と見られるからだろうか。
 
 いずれにせよ、アローラの人間は試練の脱落者に冷たい。試練そのものは何度も受けることができるが、その難度に打ち勝てず遂に諦めて去る者も多い。“努力”を重んじるアローラの人間は、そんな「最後までやり抜かずに逃げ出す」挑戦者にひどく冷酷であり、決して少なくはない脱落者たちをほとんど許容してこなかった。
 皿からこぼれた水を受け入れる受け皿のない社会で、“島巡り”という皿からこぼれ落ちてしまった脱落者たちはどうなってしまうのか――想像に難くない。零れてしまった雫はやがて受け皿のない最下層で水たまりとなって集まり、今日のスカル団を築き上げたのだ。

 スカル団は自分たちを取りこぼした社会に反抗した。島巡りの挑戦者たちを妨害し、時には多数で襲い掛かり、他人のポケモンを強奪し、街を一つ占拠し、仲間を増やして勢力を拡大し続けた。
 本来であれば社会は彼らを理解し、寄り添い、受け入れなくてはならなかったが――社会は今までより一層彼らに反発し、それまで以上に彼ら“脱落者”を排斥し始めてしまった。結果としてアローラの人間の“カースト制度”は悪化の一途をたどり、熱心に試練に挑んでいようが最終的に試練達成に至らなければ、それ即ちスカル団に等し、とまで偏見と排他が至ってしまった。
 この骨組みの中では、アローラの社会の中でまっとうに生きていくためには、試練に挑むのであれば何としてでも必ず達成しなくてはならない。古代アローラの民が「ポケモンとトレーナーの絆を深めるため、お互いに成長するため」に始めた“試練”はいつしか、必ず達成しなくてはならない強迫観念の中で行うものへと変わり果ててしまった。

 ポケモントレーナーである以上挑んでみたい“島巡り”、しかし達成できなければ社会から外れ、スカル団への道を辿るのみ。それを避けるにはポケモンとの旅そのものを諦めるか、はたまた碌な策もないまま、見せかけの誠意で何度もがむしゃらに試練に挑み続けるか。組みあがってしまった社会の枠は、誰も得をしない残酷な構造と成り果ててしまった。
 社会とスカル団との溝は深く、時間が過ぎるごとにその溝は深まり、問題は深刻化する一方であった――
 ……が、一部の人間がそんなことなど気に留めずお構いなしであるのと同様に、スカル団の一部は社会と自分たちの間の溝などそれほど深く考えてはいなかった――いや、一部どころか、スカル団の人間は社会憎しの者が多いとはいえ、あまり問題の根幹まで深く考えている人間など殆どいないのかもしれない……。
 
*

 メレメレの海は今日も穏やか。アローラらしいぽかぽか陽気に包まれたこの島の北西部にひっそりと佇んでいる掘っ建て小屋のような廃屋同然のアジト――そこが彼ら――そう、スカル団たちのたまり場だ。
 社会のはずれ者である彼らは、モーテルへ行こうにも「ウチは観光客専門だよっ!」と突き返され、街のホテルへ行こうにも「お引き取りくださいませ」と拒まれる。実家は――ほとんどの団員が冷たくあしらわれてすぐに出てくる。「よそよそしい感じに扱われた」とか、「スカル団なんて寒い集まり抜けなさい、私達まで近所から変な目で見られちゃうでしょ」とか。結局のところまっとうな場所に彼らの居場所はなく、ほとんどの団員は自前のアジトでひっそりと暮らしている。

「だーれも、オレ達のことをわかってくれようとしないよなあ」

 アジトでぽつりと呟いた一人のスカル団員。元々は隣のアーカラ島の出身で、アーカラ三つの試練全てを乗り越え、島の長である“しまクイーン”との大試練をも乗り越えた島巡りトレーナーであったが、やがて他の島での試練に行き当たって挫折し、島巡りをドロップアウトしてしまっていた。
 島巡りの証を返納したその日から、昨日まで温かく見守ってくれていた人間の目が冷たく蔑んだ目に変わる。昨日まで試練場への道で言葉をかけてくれていたきのみ農家が知らんふりをし、道具を買いそろえていた行きつけのショップ店員がよそよそしくなる。島巡りを諦めた、そのたった一つのことが自分の価値を大きく変えてしまった。そのことに大きな疑念を抱いた彼が社会を見限り、水たまりへと身を投じるのは自然なことだっただろう。

「あーあー……なーんだかなあー……」
「どうしたッスカ? そんな間抜けな独り言なんか呟いて、らしくないッスよ」

 彼が体を起こすと、いつの間にか入口にもう一人のスカル団員が立っていた。「買い物おーわり、ただいまッス」と軽く片手を上げた彼は軽いフットワークでアジト内部へと駆ける。

「なんでもねーよ」
「そッスカ、まーなんでもいいっスよ。わーこんな閉め切っちゃって、せーっかく天気がいいのに勿体ないっスよ」

 気だるげに寝転ぶ彼を横目に、帰ってきた団員は閉め切られたカーテンを開け放った。ガラスも何もはまっていない窓からは、メレメレの海が作り出す波音のメロディーが流れだす。「ほーらこんなに気持ちいいじゃないっスカ、閉め切ってたら気持ちまで閉じちゃいまスカら!」とスカスカな口拍子も加わって、一人きりだったアジトが一気に賑やかになる。

「んんー、やっぱりこの音は最高っスね」
「お前ずっとここの育ちだし、配属だってずっとここのままだろ。飽きないのか」
「飽きないっスよ、俺はこの島が好きでスカら!」
「へー。物忘れのひどい相棒のことだ、飽きるほど波の音聞いてても、眠りゃそのことを忘れて次の朝にはまたさっぱり楽しめてるもんだと思ったよ」
「な……どういうことッスカ!?」

 “相棒”と呼ばれたスカル団員は目を見開いた顔をした後猛烈な抗議を始めた。初めはそれに付き合おうとした寝転がっている彼であったが、あまりにも口うるさくて回りくどいので、もうたくさんだと言わんばかりに相棒に背を向けてため息をつく。

「ちょっと、話はまだ終わってないっスよ!」
「うるせーな、頭の悪い相棒と違ってオレは色々と考え事があるんだよ」
「ムキーッ!」

 相棒がぷんぷん怒っているのをよそに彼は寝転がったまま昔のことをぼんやりと思い出していた。小さいころからずっと一緒にいたポケモンと十歳にして島巡りへと乗り出し、試練を乗り越え、必死に前へ前へと歩もうとし続けたあの日々。それを砕かれ、こうしてならず者へと落ちてしまった今。どこで何を間違えてしまった――?

「あっ! そうっスよ、いいもの持ってきたのすっかり忘れてったス!」

 彼の回想を遮るように相棒が叫び声をあげ、買い物の荷物をごそごそと漁り始めた。なんだよ、と彼が首をもたげると、相棒がピカチュウの書かれたアクリルケースを片手にニヤッと笑っていた。

「なんだそりゃ」
「トランプ、買ってきたっス! これで本当に頭がいいか悪いか、競ってみるのはどうっスカ?」

 彼はハハ、と笑ってベッドから体を起こした。やる気っスね、と問いかけた相棒にスカル団の決めポーズで応えてやると、負けじと決めポーズが返ってきた。「決まりっスね!」と相棒の明朗な声がアジトに響く。
 ちゃかちゃか、と軽快なシャッフルの音が波音とセッションする昼下がり、男二人によるトランプ合戦が始まる――ところであったが、相棒があ、と声を上げてシャッフルを止めた。

「ところで、ルールは何で競うっスカ?」
「あー……すっかり忘れてたわ」
「完全に抜けてたっスね」
「ジョーカー二枚込みの五十四枚でシャッフルしちゃったからババ抜きはできないしなあ……そもそもアレに頭の良し悪しなんて関係ないしどうするかなあ」
「それなら! 神経衰弱、ってのはどうっスカ?」
「いいだろう、受けて立ってやるよ」

 にかっ、とマスク越しにわかるくらいに歯を見せて笑った相棒はテーブルの上にカードを広げ、狭いテーブルいっぱいに真剣勝負の場が出来上がった。お互いにニヤリと笑みを交わし、自然と先攻後攻決めが始まる。

「ナーマコーブシっ!」

 ナマコブシ――の“とびだすなかみ”を人間の手に見立てた先攻後攻決め。要するにジャンケンなのであるが、アローラ地方ではこのような掛け声が一般的だ。先攻を取った相棒は「いきなり当ててやるっスよ、恨みっこなしっスカらね!」と両手で二枚のカードをめくったが、その柄はアブリーとイワンコ。残念ながら見事にハズレであった。

「あーんもー!」
「初っ端から揃う方が怖えーよ」
 
 後攻の彼もカードを二枚めくるが、結果はツツケラとヤングース。流石にそううまくはいかねーか、と苦笑してカードを戻した彼を相棒はスカスカと笑い飛ばし、次の番が始まる。相棒のカードはカリキリと――

「あッ!」
「……」

 相棒の二枚目のカードはイワンコであった。彼はニヤニヤ笑いのままカードを戻した相棒を睨み、すかさず先攻ターンでめくられたカードを選んだ。記憶は正しく、イワンコのペアが彼のものとなる。

「くーずるいっスよ!」
「ルールに則ってずるいもへったくれもあるかよ」
「俺のめくったカード使うなんてー!」

 相棒のわめきを無視した彼がめくった次のカードはヤングース。相棒の怯む顔をよそに、先ほどのヤングースが再びめくられ、彼はこれでツーペアを獲得した。

「うぐぐぐ……」
「どうやら運も俺に味方してるらしいな、このまま勝たせてもらうぜ相棒」

 こんな勝負が何分と続き、数度目の相棒の番。まだワンペアも取れておらず焦る彼が新しくめくったカードは――

「コソクムシか、初めて出たカードだな」
「……っスね。コソクムシかあ……ボスは今頃、何してるっスカね」

 相棒は二枚目のカードを探る手を止めて腕を組んだ。ボス――彼らならず者集団を束ねている長の話題に、彼も思わず腕を組む。
 スカル団のボスである男は普段、彼らが不法に占拠しているウラウラ島の街である“ポータウン”のアジトに鎮座しており、そこから各島の団員たちに指示を飛ばしたり、時には自ら他の島へと赴いて団員と同じ時を過ごしたりしている。スカル団そのものの成り立ちが他の地方の組織と異なり、社会のはずれ者が自然と集まってきたこともあり、組織を牛耳っているというよりは団員の面倒を見ている兄貴分といっても差し支えないだろう。
 団員たちは皆、ボスのことを慕ってやまない。団員の中には、島巡りを外れて落ちこぼれているところをボスに掬われ、彼と共に自分たちを見限った社会に反抗する集団に加わろうと決意したものも少なくないのだ。
 
「俺、ボスに誘われてスカル団に入ったんスよ。嬉しかったっスね、あのとき助けてもらわなきゃ今頃どうなっていたかわかんないっスよ」
「へー……そういえばそこそこの付き合いだけど、相棒のスカル団に入ったきっかけって知らないや」
「せっかくだから、ちょっと話していいっスカ?」
「ああいいとも。カードの場所、忘れちゃうんじゃないのか?」
「へーっちゃらっスよ」

 相棒はそうやって笑うと、表になったコソクムシのカードを見つめながら、自分がスカル団に入った生い立ちを語り始めた。

 ――俺、こんな勝負を吹っかけておいて変な話っスけど、物覚えが悪くって。十歳になるころには周りと同じようにポケモン連れてメレメレの島巡りを始めたっスけど、いきなりポケモンと二人きりになったってうまくいくわけないんスよね。タイプ相性もなかなか覚えられないし、そんなだからバトルでポケモンに迷惑かけてばっかりっス。いっつも苦労して……初めての試練に挑戦するまでも随分かかったっスよ。結果は聞くまでもないっスよね。
 ――諦め悪く何度も挑んだっスけど、やっぱり最後にはダメで、投げ出して、島巡りの証を返して……これからどうしようかってしょぼくれてた時に声をかけてくれたのがリーダーだったんスよ。嬉しかったっスねえ……
 ――俺みたいなやつでも仲間に入れてくれるんですかって聞いたら、「はぐれちまったヤツこそオレの仲間だ、全部壊して壊してぶっ壊してやるんだ!」って……本当にうれしかったスよ。ついでに、「そんなカタい口調なんか使わなくたっていいんだ、俺たちは気軽な集団スカル団! スカした口調でスカっとしてやろうじゃねえか!」って……だから今の俺、こんな口調なんスよ――

「……へー、相棒にそんな過去があったとはなあ」
「全然語らなかったっスからね。さ、俺の番の続き行くっスよ!」

 相棒は軽快な手つきでさっとカードをめくる。めくられたカードは見事にコソクムシだった。「やったっスよ!」と歓声を上げる相棒を目の前に、彼はしばしぼんやりとしていたが、カードを確認してはっと我に返った。

「えっ……マジか、よくそんなところで引き当てるなあ」
「とーぜんっスよ、俺の方が賢いっスカらね!」
「いやいやたまたま引き当てたことに賢いもへったくれもねーよ」
 
 続く番でめくった二枚はアゴジムシとナマコブシ。「あーっそんなに続かないっスカ……しょーがないっスね」と悔しがる相棒を、彼は苦笑しつつ眺めた。

 脱落者たちはそれぞれに事情を抱え、それが周囲に理解されなくなって落ちぶれ、皿からこぼれてスカル団へと至る。いつからこんな仕組みになってしまったのかは誰にも知る由もないが、誰かが動かなくてはこの仕組みが変わらないのもまた事実である。
 彼には彼なりの事情があり、相棒には相棒なりの事情があった。順風満帆に立ちいかなくなって落ちぶれ、頭脳不足ゆえに落ちぶれ。それでもアローラの社会から見れば二人は同じように“脱落者”としてくくられ、同じようにスカル団としてくくられる。そこに何の違いもない、ただの敗北者として。

 彼はそんな枠組みを変えたい、と心のどこかで思ってこそいるが、具体的にどうこうしようというビジョンがあるわけでもない。寧ろ、現状が著しく悪化しでもしない限り、“脱落者”としてくくられるのも悪くはないのかもしれないと思ってもいる。初めは抵抗こそあったものの、慣れればこの気楽な生活だって悪くはない。人から避けられても、生活の質に若干の不満があれど、ちょっぴり頭の悪い相棒がいつもつるんできてもだ。

「なあ相棒」
「どうしたっスカ?」
「オレ達、何のためにいつまでスカル団続けるんだろうな」

 彼の口は自然とそんな言葉を発していた。初めはぽかんとしていた相棒だが、すぐに破顔して彼に答える。

「そーんなことどうだっていいじゃないっスカ。俺たちはならず者、拾ってくれたボスのために好き勝手暴れるだけっスよ。ボスの行き先がどこか俺たちは知らないっスけど、とりあえずついていけばいーんじゃないっスカ? そのうちどうにかなるっスよ」
「ボス、ねえ……このアジトのすぐそばに実家があるせいで、あそこを通るといつも目の敵だ。お前たちが息子をあんな風にしちまったんだ、って言わんばかりに。オレ達、このままでいいのかなって思うわけよ」
「まあ確かに思うところはあるっスよね……でも、ボスだってきっと俺たちと同じように何か苦しんで、居場所を作りたくてスカル団に行きついたんじゃないっスカ? だとしたら原因はボス本人よりもむしろ周りにあるはずっス。ボスが暴れてやりたいって言うなら、きっとその原因解決にも何かかかわりがあるはずっスから、とりあえずついていけばいいんじゃないっスカ?」
「……そうかもな」

 思えば、彼が島巡りを始めたときも、無意識に同じようなことを考えていた。何のために? いつまで諦めずに挑み続けるんだろうか?
 漫然と抱えたそんな不安を気にしないためにか、彼はただがむしゃらに試練に挑み続け、そんな不安を撥ねつけて前に進んできた。今は道を逸れて水たまりに落ちてこそいるが、よくよく考えればやることはあの頃と何ら変わってはいない。
 スカル団が人々から蔑まれる存在であろうとも、その長の真意を何も知らないままであろうとも。彼のすべきことは、ただ自分の立ち位置に従って前に進んでいくだけなのだ。社会の枠組みを変えるなどと大層なことを成し遂げられるかは考えずに、ただ自らが望んで落ちてきたこの水たまりの中で、自分を取りこぼした皿に向かって精一杯の反抗をすればそれでいいのだ。それがボスのためになるのか、はたまた自分のためになるのかはわからずとも。まっすぐ直進ではなくとも、ひねくれてぐにゃぐにゃの道になっていようとも。とにかく進んでいくしかないのだ――

「あーッ!」

 突如相棒が素っ頓狂な声を上げ、窓枠にかじりついた。何事か、と彼もその後ろにつく。
 窓から見えているのは、メレメレ島の試練場である“茂みの洞窟”の入り口。その門を、今まさに初々しい島巡りトレーナーがくぐろうとしているのである。

「よく見つけたな相棒」
「やったっスよ!」
「勝負はいったんお預けだ、スカル団の仕事と行こうぜ」
「スカしてやるっスよ!」

 二人はトランプをそのままにして準備を整え、アジトを出て茂みの洞窟へと駆ける。正攻法では試練サポーターにはじかれてしまうため、彼らしか知らない秘密の抜け道へと急ぐ道中、彼はぽつりとつぶやいた。

「相棒、お前なかなかいい頭してるよ」
「え、どういうことっスカ?」
「さっきの話。ただ馬鹿なのかと思ってたけど、結構思慮深いかなって思っただけだ」
「そっスカ? 俺はただ思った通りに動いてるだけっスカらねえ」
「そうか。それならこの仕事の後の神経衰弱、俺が圧勝させてもらうぜ」
「そうはさせないっスよ!」

 アローラに蔓延るならず者集団、スカル団。
 地方独特の仕組みから外れてしまった脱落者たちの受け皿にして、社会の枠組みの問題点を浮き彫りにする闇の深い組織。
 けれども、そこに零れ溜まる人間は、そこまでひねくれ者ばかりではないのかもしれない。本質的には、島巡りトレーナーも脱落者も同じなのだ。ただ、自分の立ち位置に従って、がむしゃらでも理由もわからずとも目標に向かって前進していくという点では。

 誰もいなくなった、メレメレ島茂みの洞窟前アジトの中。片づけられずテーブルの上に広げられたままのカードが、開けっ放しの窓から吹き込んできた一陣の風にまくられ、一枚表に返る。
 ジョーカーに描かれたカプ神だけが、ただ静かに微笑んでいた。